車内で吐かれたことをタクシー用語で「温泉に行った」といいます。
下呂温泉のことですね。

嘘ですけど。流行らないかな。
僕らタクシー運転手にとって乗客にゲロを吐かれることは死活問題です。営業ができなくなるので。
吐かれると2時間はつぶれます。大抵が夜の繁忙の時に吐かれるのでこの2時間はとても貴重です。
吐きそうだとわかったら袋を渡しますし、もしくは外で吐かせます。
本来9割の人が常識人なのですが、酔っぱらうと5割ぐらいは糞です。
- 袋を渡しても的を外してこぼす
- 気分が悪いくせにそれを告げない
- 吐いたくせにその行為自体を隠蔽する
そもそも吐きそうならば、吐いてから乗れ。本来、シーツを汚したということで器物破損になり得る案件だぞ。
損害賠償を請求される可能性もあるということだ。その辺をわきまえて乗れ。
シーツを汚す奴は客じゃねえ。糞だ。
ゲロ吐くやつは気をつけろ
かわいい子でもブスになる
21時ぐらいに無線で呼ばれたので、お店の前に行くと小太りの中年男性と、すらっとした女性がスーツ姿女性が女の子を抱えてこちらにやってくる。
抱えられた女の子の顔を見ると日本人とは思えないすっきりした顔立ち。どうやらハーフのようだ。
久しぶりに見た美人。そんな彼女がべろべろに酔っている。
「大丈夫ですか?袋渡しますか?」
まだまだこのころは未熟だった。
べろべろに酔っている場合で、付き添いがない場合は乗車拒否できる。
まだこのことを知らず乗せてしまった。行き先もまともに告げられず・・・。
行き先は乗客の自宅近くの駅。9,000円ぐらい。時間にすると4,50分といったところか。
「大丈夫です」
酔っ払いのいうことは信用してはいけない。
とりあえず、行き先も分かったことだし、大丈夫といわれたということで出発した5分後。
「おえぇえぇえ、おえっ」
車を止めて後ろを確認すると自分の服にゲロをぶちまけていて、シートまで汚れていた。
本当なら興奮案件。仕事中でなければ・・・。
100年の恋が5分で冷めた瞬間である。
べろべろに酔っぱらっていたからと何か期待していたわけではないが、人生でモデル並みの美人をお目にかかることなどほとんどない。
タクシー運転手は美人を乗せた時、なんとなく恋人気分になることがある。たまたま人数の関係で助手席に乗られたときはウキウキだ。
今回は後部座席だったが。それでも美人だとわかっているとウキウキする。
「おえっ、おええぇぇえ」
最上級から最下級へ。もう少し楽しませてくれよ。5分は短すぎだろ。
本当なら放り投げて帰りたいところだが、降ろしても仕事ができないし、そもそもまだ走って5分。1,000円にも足していない。
そのまま美人のゲロの臭いが車内を充満する中、僕は窓を開けて運転する。
『寒い。臭い』
後8,000円もの距離を運転しなければならない。地獄である。
ここで話が終わればいいのだが、まだ続きがある。
目的地に着いたはいいが起きないのだ。ゲロにまみれた女が座席から落ちて四つん這いになっている。
異様な光景だった。まるで座席が広がったようだ。
問いかけても反応がない。
仕方がないので警察を呼ぶ。こういう時女性に触れてはいけない。あとから痴漢されたといわれかねないからだ。
警察が来るまでもちろんメーターは回しっぱなし。迷惑をかけられているので当たり前。
どんどんメーターは上がっていく。
22時を超えて割増になっていたこともあって、1万を超えていた。
ようやく警察官2人が到着した。呼びかけるが反応がない。
「うううぅぅぅぅううぅう」
どうやら起きてはいたが、それどころではなかったようだ。
警察は女の財布を見つけ、自宅の住所がわかるものを探し、僕に渡してくれた。
世間での警察のイメージは悪い。だが、実際はそんなことはない。親身に僕の為に働いてくれた。
住所に到着した。どうやら親と同居らしい。一人暮らしじゃなくてよかった。
基地に帰ったら清掃しなくてはならない。その代金を請求してはいけないと会社の決まり。法律上はしていいらしい。
基地に帰ってシートにぶちまけられたゲロを見ながら、マニアには売れるのかなと考えながら虚しく掃除した。
しかし、やっぱり商売の邪魔。美人のゲロを見ても何の興奮もしなかった。
助手席で吐かれると地獄
20時ぐらいに3人組がホテルから乗ってきた。年齢は20代2人と30代1人。
会話の内容からテニスプレーヤーらしい。プロではない。
行き先は6,000円ぐらいの距離。なかなかいい。道中は特に問題なく楽しそうに会話をしていた。
まあ、これからしっかり飲みに行くのだから当たり前か。
「僕はちょっと厳しいので帰ります」
そんな中、助手席に座っている奴がいった。
『おっ、往復やん』
先輩らしき人が説得するが、頑なに帰る、と。
『帰るぞ、帰るんだぞ、負けるな』
心の中で応援する。先輩は折れてくれた。
『よし!往復で12,000円ゲット』
心の中でガッツポーズをするのだが、これがいけなかった。
どうやらホテルで飲んでからの2次会会場に移動するためのタクシーだったと気づく。
『ん?やばくね?きついから帰るだと?』
こんな時間に袋も用意していないし。仕方がないので振動を与えないような丁寧な運転を心がける。
その甲斐あってホテルへ帰ってこれた。あと少しで玄関だ。
そんな時、車の速度を抑えるためにこんもりしている部分がある。
それをゆっくり乗り上げた。最後の関門だ。
前のタイヤが上って降り・・・。セーフ。後ろのタイヤが上って降り・・・。セー・・・、
「ゴフッ!」
一発の咳のようなもので大量のゲロが・・・。
助手席に汚物が散乱する。飛び散る。何とか俺のところまでは飛んでこなかった。
ダッシュボードが汚れていた。
お金を回収し、そいつが降りると助手席のシートがゲロで汚れていた。
後部座席は取り外すことができるんだけど、助手席はできない。
「どうすんのこれ?」
掃除はしたけど、いまいち匂いが取れなかったようだ。管理者に怒られたけど、その後どうなったかは記憶にない。
ことはないけど僕は何も知らないことにしている。
殺意が湧いたゲロ野郎
小柄な男が手を挙げて乗ってきた。暗かったせいでよく顔が見えなかったが、さえない奴だ。
夜の流し暗いこともあって観察ができない。
距離は2,000円ぐらいのところ。まあ、可もなく不可もなくというところか。
走って10分程すると、
「おえっ」
小さな嗚咽だった。くそが。吐くならいえや。
お金を払う。きっちり釣りも取っていきやがった。本当にさえないゲロくそ野郎だ。
上記のテニスプレーヤーはしっかり謝ったぞ。女の子はそれどころじゃなかった。
こいつは意識はまともなくせに謝りもしないし、チップもない。おまけに微妙な距離。
そいつが俺のタクシーの前を歩いているのが見えた。ひき○したいところをぐっとこらえ、ゲロくそ野郎が見えなくなったところで一人寂しく基地帰った・・・。
ゲロくそ野郎まとめ
少しでも吐く可能性があれば申し出て下さい。シートを汚されると営業ができなくなります。

生活かかってるんです!
基地に帰って掃除をするので2時間ぐらいかかります。
もし、金曜の夜の場合、2時間あれば1~2万稼げることもあります。
そんな時間をゲロ糞野郎のせいで台無しになったら、ものすごい損失です。
本来ならシートを汚されたということで損害賠償が発生します。でも会社があほなので請求しないところが多いです。
だからといって吐いていいわけではないのです。せめて申し出て車外で吐くか、袋にはくかしてもらえれば責めたりはしませんので。

むしろ感謝です。
あなたのゲロが私たちの生活を脅かすのです。
自覚を持てゲロ糞野郎!
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